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StoryAIで物語をつむぐ方法について
「機械なんかに人を感動させる物語は、つくれっこない」
StoryAI(僕らの会社が運営している、シナリオを分析するAIサービスです)のお話をすると、そんなニュアンスの言葉をいただくことがあります。それに対する答えはこうです。
「僕もそう思います」
そんな風に思っている僕が、なぜ StoryAI をつくったのか。開発秘話というほど大げさなものではないですが、僕が考えていることを書かせてください。
※今回はライターさんと会話しながらまとめてもらいました。いつもの僕の文章とはちょっと雰囲気がちがうかも。
目次
「AI」という言葉が取り上げられるとき、多くは”人の代用品”や”人のライバル”として語られがちです。少し前に、テレビ番組やビジネス書で「AIによってなくなる仕事」特集が流行ったのはまさにその文脈ですね。
実は StoryAI は、これとはまったく違う考え方でつくったサービスです。
一般的にAIというと 人工知能(Artificial Intelligence)≒ 人間の思考を人工的に代替するテクノロジー を指します。それに対して、StoryAI は 拡張知性(Argument Intelligence)≒ 人間の知性を広げるテクノロジーを目指しています。
人の代わりに物語をつくるのではなく、人が物語をつくるのを後押しするサービスです。
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自分に物語が書けるなんて、まだ考えてすらいない人。
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書きはじめたばかりの人。
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長年書き続けているけれど、伸び悩んでいる人。
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プロとして書いていている人。
そんな人たちをサポートしようというのが、StoryAI の考え方です。今は映画やドラマ、演劇の脚本の分析を主にしていますが、まもなく小説やブログにも対応します。それ以外でも、テキストのプロットがあれば分析できます。マンガやTV番組、お笑い、スピーチ、プレゼンなどに使ってみても、何かおもしろい発見があるかもしれません。
つまり、あなただけの調教師ってこと
物語をつくる後押しとして具体的に何をしているのかというと、人がつくった物語を高速で読んで、改善ポイントをグラフにして視覚化することです。
物語というのは、一発で書き上げるものではなく、一度書き上げたものを何度も書き直しながら磨き上げていくものです。一つひとつのシーンをゼロから生み出すことに意識が向く初稿時点では、それぞれのシーンをどのように繋ぐかを俯瞰できないからです。プロであってもそれは同じです(稀に、「初稿=そのまま完成品」という変態的な作家が存在するようですが、例外中の例外、化け物です)。
実はワンシーンだけで観客(読者)の心が動くということはあまりありません。シーンとシーンがリズムよくつながり、物語の世界に入り込めるか。それらが一遍の物語として観たとき、感情はどのように起伏するか。
改稿を重ねて磨き込んだ部分こそが、感動を生み出しているのです。
だから物語を書く人たちはみんな、書き上げた原稿を読み直します。自分自身で何度も読み直すのはもちろん、プロデューサーや編集者、同業の先輩後輩、素人の友人知人などにも原稿を見せ、改善のヒントを探しそうとします。
でも人間に読んでもらうことには、いろいろな悩みが付きまといます。
・読むのに時間がかかるので、フィードバックを持つ時間が長くなる ・非常識なお願い(深夜に今すぐ読んで!等)ができない ・書き直したけど、同じ人に何度も読んでもらうのは申し訳ない ・読み手が自分に遠慮して、ポジティブなことしか言ってくれない ・読み手が独特の好みの持ち主で、アドバイスを信用できない ・アイデアを盗まれるかもしれないので見せたくない ・まだ初心者なので人に見せるのが恥ずかしい、怖い
などなど。こうした点を解決するのが StoryAI です。
・ 40分で1000行を解析できるので、高速で結果が出せます(たまにバグでお待たせしてしまっています。ごめんなさい……) ・24時間、何回でも気を使うことなく解析できます(従量課金制なので、使っていただけるほどうれしいです笑) ・機械なので、忖度しません。好みもありません。優れたシナリオには美しいグラフに、そうでもないシナリオは不格好なグラフになります ・解析につかったファイルは、強固なセキュリティで守ります。他の誰にも知られることはないので、アイデア盗用の心配も、恥ずかしがる必要もありません。
ヒット作品に共通する、”物語の鼓動(ビート)”を解明する
人間の代わりに物語を読み、高速で客観的な分析をする。それによって、物語づくりの肝である、磨き込み(改稿)の精度とスピードを高める。それが Story AI でやりたいことです。
ここで重要になるのが、何をどう分析するかです。より良い作品にするためのヒントになるような情報でなければ意味がありません。僕が目を付けたのが、物語解析の手段としては王道と言っていいエモーショナルアーク(感情曲線)と、ビート(鼓動、テンポ)です。
この2つ、特にビートが優れた作品が、人の心を打つのだということが分かってきました。
↓は、StoryAIでシナリオ解析した結果のグラフです。解析したのは2つ。上が業界にこの人ありと謳われた橋本忍氏の作品の解析結果で、下が脚本講座に通ったアマチュアが書いた脚本の解析結果です。
橋本忍「砂の器」
コンクール1次審査突破作品

説明がないと意味が分からないとは思いますが、知識がない状態で見ても2つのグラフがずいぶん違うことは伝わるんじゃないでしょうか。詳細に説明すると長くなるので、触りだけ説明しますね。
縦軸は読み手の感情の動きを表しています。上にいくほど活性かされた場面で、下に行くほど不活性な場面です。横軸は時間の経過(シナリオの行数)を表しています。左側が1行目で、右に向かって物語が進みます。
ブルーの線は、それぞれのシーンがそのシーン単独で与える感情効果を示しています。一方、ピンクの線はそれまでのシーンでの積み重ねも踏まえた感情を表します。上で書いたポイントのうちの1つ、エモーショナルアークですね。
エモーショナルアークを見る際に大事なことは、ブルーの線とちぐはぐになっていないかどうかです。
例えば、不活性なシーンが続いた後、いきなり極端に活性なシーンに切り替わった場合、ブルーの線は極端に動きますが、ピンクの線はあまり動かずに、2つの線がかけ離れてしまうことがあります。これは、唐突なシーンの変化に観客の感情が追いつかない可能性があることを示しています。いわゆる、置いてけぼりになってしまっている状態ですね。
さっき一番重要だと書いたビートは、ブルーの線のギザギザの間隔で分かります。間隔が一定になっているのが理想で、部分的にスカスカになっているのは良くない状態です。スカスカ=その箇所だけ、1つの状況が長く続きすぎて間延びしてしまっているか、感情のアップダウンが極端すぎて谷間になっているかのどちらかです。
健康な心臓の鼓動が、一定のリズムで安定しているように、欠陥のない物語は緻密なビートを刻みます。観客の心を常に惹きつけることで、自然と作品に没入してしまう状況を作り出します。
ビートの重要性を肌身で感じているプロデューサーたちは、周囲のクリエイターに別の言葉でそれを伝えています。
映画プロデューサーが脚本に「テンポが悪い」とダメ出ししたり、編集者が新人漫画家に「○ページに1コマ見せ場をつくろう」とアドバイスしたりするのは、どちらもビートのことです。
テーマ設定や世界観、一つひとつのエピソードの強度はもちろん大事です。ただ、作品全体の評価への影響で言えば、ビートはおそらくそれら以上の役割を担っています。
目指す世界観は、藤井棋聖が拓いた棋士とAIの関係性と近いのかも
創作の主体はあくまで人間。でも、機械が手伝うことでより多くの人が、より良い作品を生み出せるはず。僕のこの考え方は、藤井棋聖の「盤上の物語は不変」に通じるのではと、勝手にシンパシーを感じています。
僕なりの解釈を書かせていただくと、将棋と技術(将棋の技術、将棋外のテクノロジー)の関係は↓のように変わって来たのだと理解しています。
羽生以前:神事に近い世界観。将棋道。将棋の外の振る舞いや精神性が重要視される。棋士は求道者。羽生登場:「将棋はゲーム」発言。将棋そのものの強さ、戦略やエンタメ性に目が向けられる。棋士は競技者。人間>AI:棋士が勝っていた時代。将棋の複雑さ、神秘性などが証明されたかのようなムード。棋士が主役。AIは引き立て役。AI>人間:トップ棋士がAIに負け、人間の存在価値が揺らいだ時代。カンニング疑惑事件も勃発し、将棋競技そのものに暗いムード。棋士は敗北者。AIは侵略者。人間とAIの対立構造。藤井棋聖:「(AI時代においても)盤上の物語の価値は不変」発言。棋士の存在価値を“強さ”から“物語”に置き直した。AIも棋士を成長させる存在として“共存可能性”に言及。棋士は物語を生む創作者、AIは創作を助けるブースター。
エンターテインメント(映画、ドラマ、小説、マンガ、…etc)にも、遅れて同じ流れが起きるのはまず間違いありません。
すでに、作品をつくる”速さ”では、多くの分野でAIが上回っています。そう遠くない未来に、リズムの”正確性”や、人間心理の”理論に正しく沿った表現”などもAIに軍配が上がるようになるでしょう。
ある意味、人間がAIに負けた時代。人間のクリエイターは不要になるのか? そうはならないと思うし、そうなってほしくないとも思います。タイトルの質問じゃないですが、人間の心を打つのは、やっぱり人間が生み出すものなのだと思うのです。
でもだからといって、AIが無用の長物かというとそういうわけではなく、AIがある時代だからこその新しいクリエイターの、新しい物語が生まれてくるはずです。
StoryAI はただの入り口です
StoryAI を世に出すまで、けっこうな時間をかけました。最初の着想から数えると、早6年が経ちます。それだけ時間をかけたのは、このサービスがすべてのコンテンツ制作のスタンダードになる可能性を信じているからです。
でも、このサービスを成功させることが僕のゴールかというと、全然そんなことはありません。もちろん目標の1つではあるのですが、ほんの入口程度に考えています。
本当にやりたいことはというと、「新しい才能を世の中に送り出すための仕組みづくり」です。物語をつくるって大変なことではあるのですが、先行投資が限りなく小さく済みます。PC(最悪、スマホでも)1つではじめられ、当たると人生が切り拓ける。J・K・ローリングのようなサクセス・ストーリーは、この先もいくつも生まれるはずです。
才能に光が当たりやすい世の中にするために、先のプランも考えています。国外でのサービス提供、クリエイターのための新しいプラットフォームづくり、業界の知財への考え方自体のアップデート……。
もっと大きなチャレンジをはじめるための入り口である StoryAI 。まだ使ったことがない方は、ぜひ使ってみてください。
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