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私がGovTechをやらない理由(わけ)
たまには、こういう事も書いてみようと思い、筆を執ってみました。わたしのバックグラウンドはGovTech+Enterpriseモバイル+EnterpriseSaaSです。つまり中央官公庁と大企業に特化したSalesでありSalesEngineerが「後天的に創られた能力」です。
それが、EntertainmentのAI化に特化して、自分で言うのもあれですが、苦労に苦労を重ねていまを生きているのには、当然「理由(わけ)」があります。
これが、多分ほとんどの人には「見えていない」のではないでしょうか?道楽ですか?本業はなんですか?と聞かれることが多いので、ちゃんと説明しておいたほうがいいな、と思いました。
GovTechをやらない理由
これはとてもシンプルに「無理ゲー」だからです。国の一般歳出におけるIT予算は中央省庁+自治体合わせて約2兆円を超える程度です。これがマーケットキャップということになります。そして、国内のGovTechはあくまで日本だけの課題であり、グローバルに共通する課題ではありません。これが医療問題であれば、人口減少下社会における課題を先に取り組んでおくことで、将来ヨーロッパなどで起こる問題にいち早くソリューションとして提供でき、グローバルイシューになるでしょう。
しかし、ベンチャーが触れる範囲のITは競争入札資格問題があり、ランクAからランクDまでを超えていかねばならず、ほとんどのベンダーはこのランクDから始まり、ほとんど参加できません。国際通貨基準である10万SDR(大体1600万円程度)以下の案件ならランクBでも参加できますが、その条件が厳しいので。
さらに、120万SDR(1.5億円程度?)を超える案件にはランクAが必要で、もう寡占の領域です。ですから、これまで大手SIerや通信事業者を代理としてその下で入札に参加することになっていました。
この総務省経由の発注方式では大手優遇でしかなく、どうしようもないため、経済産業省(METI)や内閣府などが別スキームを作っていたりするのですが、中々難しい。さらに、財務省が予算配分を厳しく管理していることもあり、研究開発案件(通称、研開)も大手コンサルティング事業社が中心となって受注しているわけです。何も生み出せないのに。
あくまでこれは受託ベースの話ですが、この様に国側が歩み寄る姿勢が薄く、INCJのように投資という形や中小機構がLPとなったり政策金融公庫が貸し出したりと、金融行政的にばらまく方向になっているというのが実情だと思います。
そこで、最近のGovTechがやっている、地方自治体の窓口効率化問題というのは良い方向だと思いますが、元々KIOSUKU端末で処理していたものを汎用化するという話なので、アップサイドはKIOSUKU端末の購入コストと対応人件費分のオルタナティブだと考えられます。
また、私は地方自治体を苦手としており、中央省庁から全体にばらまく方式が得意というのもあって本丸に攻め込めないならやらないというのが本音です。先程あげた2兆円の内訳ですが、8000億円が国費、1.2兆円が地方自治体です。地方交付税交付金という形で配布されます。各省庁毎のIT予算については、財務省のサイトや、ぎょうせいが出している予算資料を購入すると書いてあるので、調べてみてください。ちなみに、私の顧客でもあった国税庁の年間予算は7700億円前後で、内780億円ぐらいをIT予算に割り振っていると記憶しています。ただ、この費用の大半は随意契約であるKSKシステムの維持管理費に割り当てられ、新規IT導入費用は大した額ではありません。電子申告・納付システムもそのなかですし、LAN/OAもその中ですので、新規投資というのはとても少ないのがよくわかります。その中から数百万を捻出してもらい、現在に至るまで動いているのが確定申告書作成コーナーです。これは、よく勘違いされますが、プロジェクトメンバーではなく、私が中心で初期システムは出来ました。私が後方に回ったのは、金になると思われ先輩に仕事を譲った翌年からです。ですから、常務からは私のシステムとずっと言われ、良いことも悪いこともお前のせいと言われました。
逆に経済産業省はR&D予算が比較的大きく、IT予算は少ないという傾向にあります。このR&D予算を各社予算取りしてしのぎを削る世界なのです。
さて、この予算の因果と輪廻の枠組みから外れた予算があります。
特別会計です。
これは現業と言われる、各省庁が独自に売り上げている費用はある程度自由に使えるという問題があります。一般歳入とは法人税と所得税、消費税と国債を足したものなのですが、特別会計は別腹だったと記憶しています。総務省なら携帯電話番号を管理するPARTNERシステムのお金、国土交通省なら自動車や道路に関するお金が別会計になっているはずです。その予算で創られたシステムは、財務省や国会の枠から外れるので、比較的自由度が増します。これを取れるかどうかが従来のSIerの戦いでした。IBM、日立、NTT-Dはこの現業に強く、LAN/OAなどの一般ITに強いのがNECや富士通という枠でした。その他の案件が独立系企業が取りに行くという感じです。
途中途中で義憤に駆られた役人の方がスキーム壊しを行うのですが、大体失敗します。政治的な配慮などが入るためです。ですから、賢い役人の方は先生方といい感じに距離をとっていたりします。ですから、私のようなSIerの営業のしごとは、民間営業と違ってお酒を飲むことではありません。内偵です。いかにお客様から情報を取るかです。他社のプロジェクトがどういう状況かを知ることが大事なのです。コンプライアンスの限界まで挑む感じですが、むしろお酒を飲むほうが双方にとってコンプライアンスを突破しやすいので、内偵している方がずっと楽です。だって、ただの商談ですからね。
こうやって、配慮に配慮を重ねて足掛け3年ぐらい粘りに粘って、一つの注文を形にしていくのですが、お客様が異動するとアウトになるという問題が生じます。ですから、引き継ぎの儀式というものが大事になります。
こんな世界ですから、私は鼻っからこの分野をなんとかしようなんて思うこともなく、もう良いよね。今はやらなくていいよと、心に誓ったのでした。
意外と消極的です。
人生は短いので違うことをやる
18歳から28歳までの10年間で、GovTechを堪能し少し疲弊していた私は、その後、郵政民営化時代に通信に弱いということを痛感し、通信キャリア「ソフトバンクモバイル」(現ソフトバンク)に転職します。
この10年で社長営業賞1回(実際は3回だが先輩に2度も譲っている)、個人営業賞1回(営業2000人中特定分野で1位)、他にも賞をとったり、コンサルティング(エンタープライズ・アーキテクチャー)を売るという仕事をメーカーとしてはIBM以外でほとんど初めて成功させた事で、目に見えない商品を売ることに対しては、スペシャリストになっていきます。ソフトウェアではなくソリューショニストとして成長していきました。やめるとき、事業部の営業本部長(現常務)に「川合ちゃんは、日立大学を卒業するんだね」と言われたことはいまだに覚えています。
つまり、僕は日立という学校に通っていたんだと思いました。そんな私が、ほんとうの意味で就職したのが、ソフトバンクモバイルだったのではないかと今では思います。ある意味合議によらない、天才経営者の経営を見上げながら乗り続ける船に翻弄された日々でもあります。
モバイルではほんと役に立たなかったと思いますが、2010年からはGoogleApps(現GSuite)とモバイルデバイスの組み合わせで、全国の大企業様、グローバル企業様相手にどんどんと導入していきます。
実は現在、StoryAIをご利用いただいているお客様もその時のお客様であり、日立時代からずっとお取引したかったという憧れの企業様でもあるため、人生は捨てたもんじゃないなと思っているところです。
話は戻しますが、エンタープライズな仕事を勤め上げた後、やめるわけですが、どうせだったらそういう世界から足を洗おうと思ったわけです。そもそも、私は小説家になりたかったのですから、そこに振り切っても良かったと思います。しかし、自分の才能の限界をどこか感じてしまい、ならばエンターテイメントとバックエンドITの融合をという世界ががら空きであることを探り出します。
やっていないことをやろう。
30代なかばの私はそう決めます。私が経験してきたことは若い人がやればよく、私は誰もがやらない事をやろう。そう決めるのです。だって、人生は短いのですから、驚きを持って取り組める仕事が良いですよね。たぶん、もっと単純にお金だけ儲ければ良いなら沢山の道があったと思います。ですが、私の選択肢にそれは現れませんでした。現れてもその道はその先につながっておらず、行き止まりでまたもとに戻ると、新しい道が出来ていて、そんなことの繰り返しで今日までやってきたのです。
コンピュータを使って世の中に貢献する
これは最近良くつぶやくようになりましたが、私が18歳のときに、配属面接のときにお話した言葉です。
「コンピュータを使って世の中に貢献するためにこの会社に入ったので、一番大きい仕事をください」
生意気ですよね。(笑)
この願いは無事かなって、年金行政の仕事に付きます。年間300億を超える売上のうち約半分の150億円が自分の仕事です。この年度の最後には、年金予算からIT予算への配分をお客さんと一緒に決めるという仕事を与えられ、夜な夜な(毎日2時3時)電話しながらエクセルをカチャカチャと動かしていました。その後、この庁はマスコミに叩かれまくり、お取り潰しにあうのですが、それは別の話です。そして、このときに配属された部署の部長が、今の日立製作所の副社長をやられている方ですし、常務クラスにも当時お世話になった方が沢山いらっしゃって、そういうレベルの方から学べたのは、とても今役に立っていたりします。
当時から役職者しか見てはいけない経営資料を見せて頂き、事業部単位のKPIパフォーマンスを教えてもらっていました。本当は同期の大卒に教えたかったようですが、彼らは興味がなかったらしく、素直に吸収する私に教えてくださったようです。何事も素直が一番です。
私は癖がある人間だとよく思われますが、自分よりすごいと思った人の話はしっかり聞きます。意外と素直なので、人によって感じ方が違うと思います。たぶん、直属の上司とかは嫌だと思っていたと思いますが、それより上の人はむしろ可愛がってくれたと思います。
結局の所、視野の狭さからくる、小さな上がりだけを見ているような人とは、付き合う価値はないとずっと思っているからだと思います。現に、現在仲良くお話させていただいている方は、よりマクロに人々の安寧を願うような方ばかりなので、みな苦しい中戦っていますが、そういう本当の志がそこにある限り私はそういう人と歩んでいくと思います。
志の大きさ=マーケットのデカさのように表現する人がいますが、そうではなく、国家を超え歴史的観点、地球的観点から私達は依代として何をなすべきかと考え抜かないといけないのではないかと愚考します。
ですから、ようやくStoryAIの話になっていきますが、一見人の生活に密着しないシステムのように思えて、これが人の生活を間接的に支えることになると考えているから私は今を生きているわけです。
そして、それを下敷きに、18歳時の誓いをアップデートし、新しいミッションを作りました。それが、
「情報機械で社会を革新に導く」
です。傍から聞くと全く近くないように聞こえると思います。SIの会社のように聞こえます。ですが、そうではないのです。
これまでの私はあくまで「世の中に貢献する」というところで止まっていました。今を何とかしようともがいていたのです。ですから、もぐらたたきしかしていませんでした。もぐらは叩いても叩いても根絶できません。一時的撤退をさせているだけに過ぎません。
そもそも、元から絶たないとだめなのです。もしくは、それを受け取る側を革新させないとだめなのです。
ですから、社会を革新に導く方向に全体をアップデートすることに決めました。とても難しいことです。人を変えることは難しい。でも、少しでも変えていかなければ、未来はありません。今を永遠に生きることになります。
私はそれは嫌です。
人は間接的な事柄から学ぶ
ようやく、なぜ情報機械で社会を革新に導くことの始まりがStoryAIなのかについて、ご説明できるところまで来ました。
結局の所、人は考える生き物です。情報財産を次世代に残し、学ばせる、特殊な生き物です。
これは他の生物に見られません。直接的な学びよりも、他社の経験のレトリックから感じ取り、自分の糧にし、成長し進化をする生命体です。
これを読んでいる方は、映画やドラマ、小説、アニメ、ゲームなどから少なからず学んだことがあるでしょう。人は体験を共有させて人生を学ばせる、将来をシミュレートさせています。つまり、こういったいわゆる一見役に立たないと思われるエンターテイメントはエミュレータでありシミュレータであると言えます。
そのためにはとても大事な事があります。それはストーリーが良くないと残らないということです。売上はキャラクターで作れますが、維持するためにはストーリーが大事だということです。この相関に気がついた私は、ストーリーを調べようと考えました。人の考察・経験に依存しない「ものさし」を作る。
つまり、StoryAIの役割は「ものさし」ということになります。
そういった、人を成長させる、革新させるためのストーリー/シナリオを見つけるところから始める、遠い遠い旅の始まりなのです。昨年から今年の3月までシナリオをプロの講座にて学びました。
数十人のプロに教えていただいて、共通していたのはストーリーがすべてです。すべての物語はシナリオが出来ていないと始まらないのです。
少なくとも、私が他の人と違うのは自らがクリエイティブを学びに行ったことにあります。大体の開発者は人の話を聞くだけで、お任せしますと言ってしまいます。現場を見ずに作れるわけがない。それが、コアコンピタンスならなおさらです。
さらに機械化が進むこの世界で、人に残された楽園はエンターテイメントだけだと私は思います。ですから、耐久消費財としてのエンターテイメントを提供する側、そのエコシステムを作る側に回らなければいけないと考えているのです。
そして、このストーリーの作り方はグローバルワンであり、グローバルイシューなのです。世界中でブレイク・スナイダーロジックを使い、スリーアクトストラクチャーズを使っているのです。そういった固定された制作環境こそ、解析が可能と考え実際に数値化に成功しております。
出来ることからやる、というのがベンチャーのあるべき姿ではないか?と私は思います。
まとめ
とりとめのない話になりましたが、まとめると以下のようになります。
- GovTechは参入障壁がデカすぎる
- 魑魅魍魎が多すぎて戦えない
- 見た目よりも上がりが少ない
- グローバルイシューではない
- 一通りやったからもういい
- エンタメITだけが人を革新させる
- Storyはすべての始まり
- 社会のすべてが機械化されたら人はエンタメぐらいしかやることがない
ということになります。
とにかく最初に与えられた仕事をした結果、社会を理解することが出来ました。それは本当に感謝いたします。しかし、今の私がチャレンジすべきことは、始まりの始まりを作ることだと確信しています。
今のITは若い人に任せ、私は次を作る。本当は逆なのかもしれませんが、私の人生が逆転の人生だと思えば、いま若者のようなチャレンジをすること自体は何も問題が無いと思います。
ですから、当時とは状況が違いますから、若い人はどんどんやればいいと思います。ただ、私はもうやらないというだけです。
一つ言えるのは、脚本家の学校に通っていた最後の日に理事から言われた言葉がすべてだなと思っているということです。
「15年沈んでいた人間は、上がった後も最低15年戦えるということです」
天は人生を平等に評価しているのです。